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太陽電池材料の研究


概要

太陽光発電装置の製造を目指すマニュエラ・シーク博士の研究グループは、レーザー顕微鏡の最新技術を用いることで、有機半導体と透明電極に関する研究成果を得ることに成功しました。

太陽光発電は、代表的な自然エネルギーと考えられています。しかし、その生産過程について考えてみたことがあるでしょうか。例えば、太陽電池に用いられる結晶シリコンについて考えてみましょう。まず、シリカ鉱石を利用可能な結晶状態にするには2,000℃の高温にする必要があります。この工程が多くのエネルギーを必要とするのに加え、超高純度のシリコンを得るには危険な化学薬品や温室効果ガスが必要です。また、現在製造されている無機薄膜太陽電池の多くに含まれるセレンやカドミウムといった有害成分も問題となります。インジウム・スズ酸化物(ITO)を形成するインジウムも太陽光発電に不可欠な成分です。しかし、この希少資源は2017年までに枯渇すると考えられており、これはもう一つの課題につながります。タンタル(トランジスタの製造に必須のレアメタル)の場合を例に挙げると、供給量に限度があることが、コンゴ民主共和国の政治的紛争につながっています。
世界的な電力供給の逼迫と持続可能なエネルギーへの転換の動きに合わせて、自然エネルギーを用いた発電装置を製造する方法も同様に持続可能なものであるべきです。それこそがオルデンブルク大学のマニュエラ・シーク博士の研究グループの目標です。彼らの研究では、太陽電池製造のための安全かつ入手が容易な代替材料に注目しています。具体的には、光吸収層に用いる有機半導体や、有機ポリマー基板に組み込まれる銀ナノワイヤー網の透明電極があります(「有機太陽電池の構造」を参照)。
太陽電池は複雑な多層構造になっており、表面解析技術によって重要な情報が得られます。これまで、接触式の形状測定やAFMが表面形状測定の主要な方法として用いられてきましたが、最近ではレーザー顕微鏡がより一般的に使用されるようになってきました。
レーザー顕微鏡は、その精密で色再現性の良いカラー画像を撮影する技術と非接触のレーザー走査技術の組み合わせにより、光学式形状測定装置として評価されています。レーザー顕微鏡は、柔らかい面や粘着性がある面を接触式よりも迅速かつ効率的に、高い分解能で測定できます。これらの特徴を持つオリンパスの3D測定レーザー顕微鏡LEXT OLS4100を導入したシーク博士の実験室では、太陽電池製造の代替手段の研究が大きく前進しました。

有機太陽電池の構造  

有機太陽電池の構造
最も一般的な有機太陽電池の構造は、二つの電極層に挟まれた光子を吸収する活性層を基にしているものです。二つの電極層のうち、一つは光を通すよう透明でなければなりません。有機半導体に光子が衝突すると、電荷を持った励起子が生成され、生成された励起子は、電子供与体(ドナー)および電子受容体(アクセプター)の2種類の発電材料を用いることによって、自由電子と正孔(ホール)に分離されます。自由電子と正孔はそれぞれ電場に誘導されて各電極に向かって移動し、電気回路の形成に必要な電荷分離が生じます。
シーク博士らの研究では、環境破壊につながる化学物質の代わりに有機材料で活性層を形成することに加え、もろく希少なITOの代わりに銀ナノワイヤー(AgNW)の透明な網を使うことに着目しており、その結果として柔軟性があり、持続可能かつ安価な一般用途向けの薄膜太陽電池を作ることを目指しています。

活性層の有機材料

活性層は光子からエネルギーが取り出される場所で、多くの場合有機太陽電池ではポリマーとフラーレンの2種類の材料を不連続に混合して形成されます。このポリマーが電子供与体、フラーレンが電子受容体として機能するバルクヘテロ接合構造によって自由電子と正孔の電荷分離が促進され、その結果太陽電池の機能が向上します。しかし多くの場合、ポリマーは鎖長が異なる複数の材料からなる混合物で、厳密に規定された物質ではないため、その特性はばらつきが大きくなります。一方で、分子半導体は明確に規定された構成要素であり、その表面をわずかに変化させて特性を調整することができるため、太陽電池の改良に合わせて最適化することができます。そのような分子の中で注目されているのがスクアライン色素(図1)です。その構造により、光スペクトルの赤色域において高い光吸収力があります。シーク博士の研究では、フラーレン受容体と混合されたスクアライン色素で形成されたバルクヘテロ接合活性層を調べています(詳細は参考資料1を参照)。この研究においては、活性層の厚さが非常に重要であり、薄過ぎると電荷キャリアーの移動が制限され、厚過ぎると光吸収と柔軟性が大きく低下してしまうのです。
従って、層の厚さを正確に測定することが重要となります。シーク博士の実験室では、細い針で活性層表面を貫通するスクラッチをつけ、そのスクラッチの深さを連続的に測定しています。以前は接触式の形状測定を行っていましたが、有機材料が柔らかいため正確な測定ができませんでした。実際に接触式の測定値とレーザー顕微鏡の測定値には高さ20nmほどの違いが頻繁に出ました。活性層の平均的な厚みが100nmであることを考慮すると、この違いは非常に大きなものです。これは、接触式測定機のプローブがその谷間から上がるときに表面に傷をつけるため、その結果高さの測定値が誤った低い値になってしまうためです。
3D測定レーザー顕微鏡では、表面を走査するのはレーザー光であり、サンプルに接触しないため、高精度な表面形状測定が可能です。さらに、OLS4100を使えば、サンプルの3D形状を画像化できるため、直感的な測定が可能です。しかも、この画像情報を簡単に報告書にまとめて、数値データと共に利用することができます(図2.B)。

偏光下のスクアライン

これらの分子色素は、地球にやさしい代替材料を提供します。これらの画像は、OLS4100により、分子色素の直交ポーラーを画像化したものです。

単結晶の金色の金属光沢
図1.A 単結晶が金色の金属光沢を示している。
純スクアラインの回転成膜層
図1.B 純スクアラインの回転成膜層。焼きなまし時の結晶化により、球晶状の凝集体が形成されている。

軟性材料の正確な測定

軟性有機材料で作られた活性層の厚さは一般に100nmあり、触っただけで簡単に破損してしまいます。

オリンパスのLEXT OLS4100による非接触式形状測定
図2.A オリンパスのLEXT OLS4100によって実現された非接触式形状測定
報告書にまとめられたデータ
図2.B 報告書にまとめられたデータ

透明電極

光透過性と導電性を合わせ持つ透明電極は、太陽電池のアノードを形成するとともに、光が活性層まで通過できるようにしています。現状、透明電極には、急速に枯渇しつつある資源であるITOが標準的に使われています。さらに、ITOはもろい材料であるため、機械的な柔軟性がある装置での使用は制限されます。そのため、探しているのは軽量、安価および柔軟性があり、大規模な処理にも対応できる代替材料です。例えばグラフェン(図3)は代替材料の候補ですが、その薄片は極めて小さいため、広い面積への使用は困難です。
有望な代替材料候補の一つが、ポリマー基板に組み込まれる銀ナノワイヤー(AgNW)です。シーク博士の第2次プロジェクトで注目しているのは、まず銀ナノワイヤーを製造し、それを加工して電極を形成し、最終的に有機太陽電池に組み込むことです。
導電性を高めるには、活性層と電極が均一に接続されている必要があるため、均質な銀ナノワイヤーが求められます。また、銀ナノワイヤーの直径100nmは活性層の厚さに匹敵するため、これらの接合界面の凝集を避け、活性層のせん孔を防ぐことも重要です。しかし、現行の回転成膜製造法を用いて太陽電池全体にわたってこれを実現することは、現実的には困難です。そこで、表面粗さ検査が合成プロトコルの最適化において重要な役割を担います。
これまで銀ナノワイヤーメッシュの表面粗さ測定には、主にAFMが使われていましたが、OLS4100の導入により効率が大幅に向上しました。まずシーク博士が気付いたのは、画像貼り合わせ機能を使って視野を広げることによって、電極表面をより詳細に観察できるということです。銀ナノワイヤーメッシュは、狭い領域内では正常に見える場合でも、1mm2(AFMの10倍)の高解像度画像を作成すると、従来であれば見過ごされていただろう凝集領域を容易に見つけることができます(図4A、B)。また図4Cにあるように、ソフトウェアで高さ形状を3D画像化することができるので、解析と資料作成の両面において有用です。さらに、ローパスフィルターを高さ80nmから800nmまで上げることができるので、銀ナノワイヤーの上方の領域でもさらに詳しい解析が可能です。
AFMによる検査は時間がかかるということも、OLS4100の導入が効率化につながった理由です。AFMの場合、装置を立ち上げて探針に関するノイズ調整を行った後、走査に1時間もかかる上、使える画像を1枚取得するのに丸1日かかることもしばしばです。レーザー顕微鏡を使えば、専用ソフトウェアにより、顕微鏡検査の経験がない学生でも、迅速かつ直感的に画像取得が可能です。性能面に関しても、研究者たちは、AFMとOLS4100では同等の測定結果が得られることを認めており、透明電極の表面粗さ検査の効率が改善されたことによる恩恵を受けています。
このプロジェクトにおいてもう一つ興味深いのは、透明電極が、例えばLEDやタッチスクリーンなどのオプトエレクトロニクス分野の用途全般においても幅広い可能性があるという点です。オプトエレクトロニクスの分野でも、ITOの代替材料の開発は注目されている研究の対象です。将来、オプトエレクトロニクスを使ったインターフェースの発達により、光で電気信号を発生させて神経活動を疑似的に再現できる網膜を移植して、視力を回復させることさえ可能になるかもしれません。

発光有機半導体で覆われた多層グラフェンの薄片

グラフェンは、透明電極として使える可能性がある
図3 
このグラフェンの構造は、現在有機発光ダイオードへの活用に向けて研究中ですが、透明電極として使用できる可能性もあります。ただし、面積の広い太陽電池にはこの薄片は小さ過ぎます。直交ポーラーを画像化しています。

3D測定レーザー顕微鏡OLS4100を用いた銀ナノワイヤーメッシュ電極の表面粗さ測定

画像貼り合わせ機能により視野が広がります。ローパスフィルターは800nmに設定しています。

明視野での銀ナノワイヤーの分布
図4.A 明視野での銀ナノワイヤーの広範囲にわたる分布の解析を容易にする
高さによる色分け
図4.B 高さによる色分け
有機太陽電池の構造
図4.A 明視野での銀ナノワイヤーの広範囲にわたる分布の解析を容易にする

まとめ

世界の電力供給網に持続可能な方法で電力を供給することは、現代社会が抱える最大の課題の一つであり、革新的な解決に向けて盛んに研究が行われています。最新技術を応用して広く入手可能な材料を使用できるかどうかが、環境にやさしい太陽電池製造手段を将来的に提供できるかどうかの鍵を握っています。
非接触の形状測定法により活性層の正確な段差測定を可能にすることに始まり、速い処理速度と高度なソフトウェア機能による解析効率の改善まで、オリンパスの3D測定レーザー顕微鏡LEXT OLS4100は、マニュエラ・シーク博士の研究グループに接触式形状測定法を上回る多くの利点を提供しています。代替エネルギーは今後大きな関心事となることから、進化するレーザー顕微鏡技術が太陽エネルギーの革新において重要な役割を担っていくことになりそうです。

著者

マーカス・ファビッシュは、Olympus SE & CO. KG(独、ハンブルク)の材料化学顕微鏡の製品開発責任者です。

参考文献

1. S. Brück, C. Krause, R. Turrisi, L. Beverina, S. Wilken, W. Saak, A. Lützen, H. Borchert, M. Schiek, J. Parisi, Structure–property relationship of anilino-squaraines in organic solar cells, Phys. Chem. Chem. Phys. 16 (2014) 1067.
2. F. Balzer, H. H. Henrichsen, M. B. Klarskov, T. J. Booth, R. Sun, J. Parisi, M. Schiek, P. Bøggild, Directed self- assembled crystalline oligomer domains on graphene and graphite, Nanotechnology 25 (2014) 035602.

Olympus IMS
この用途に使用される製品

LEXT OLS5000は、非接触・非破壊で微細な3D形状の観察・測定が可能なレーザー顕微鏡です。 サブミクロンオーダーの微細な形状測定に優れ、スタートボタンを押すだけでオペレーターの習熟度に左右されない測定結果を得ることができます。 従来比4倍のデータ取得速度を実現し、専用長作動距離レンズや拡張フレームにより従来諦めていたサンプルも測定できるようになりました。
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