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事例・お役立ち資料

接続された厚さ計とクラウドベースソフトウェアの使用により改善された厚さ測定データの管理

著者:Greg Bauer

はじめに

石油・ガス産業や化学産業にとって重要な材料を運ぶパイプラインには、腐食をモニタリングするための定期検査が必要です。 標準的な検査は、パイプやタンクの壁厚さを超音波厚さ計で測定し、資産の機械的完全性をモニタリングするものです。 こうした検査を実施するために、資産所有者は社内検査チームに任せるか、より一般的な方法としては検査サービス提供業者と契約を結びます。 厚さ測定値の使用目的は、単に問題を特定するだけではなく、長期的な壁の損失をプロットして、メンテナンスや将来的に検査が必要になる時期を予測することにもあります。 修復のためにパイプラインを遮断したり、さらには資産の故障が発生したりすることに伴う費用を考えると、厚さデータの管理は重要です。

検査産業では、顧客のニーズと使用機器に基づいて各種のデータ管理プロセスが取り入れられています。 こうしたプロセスは装置やソフトウェアテクノロジーの進歩に伴って発展しましたが、このような改善を活用していない企業も存在します。 このホワイトペーパーでは、超音波厚さ計による検査データの管理の歴史、管理プロセスの変遷、現在の問題点とペインポイント、利用可能な改善点を受け入れない企業がある理由について取り上げます。 また、クラウドコンピューティングやモノのインターネット(IoT)の出現によってワークフローがどのように大きく改善されているかと、これらのソリューションが検査データ管理の将来をどのように形作るのかについても触れます。

超音波厚さ計の歴史

電池式厚さ計

1970年代、多用途向けに最適化された小型の電池式厚さ計が広まり始めました。 年を追うにつれ、厚さ計は小型化と強力化を増しました(「超音波厚さ計の歴史」、日付なし)。 この時代の超音波厚さ計は厚さ測定値をデジタル式に保存できなかったため、検査会社は結果を紙に書き写して、記録を保持していました。 「検査結果は手動で取得し、必要なすべての計算(腐食率、残存寿命、検査期日など)は紙を使って手で行っていました。 記録は公式・非公式ともにファイルキャビネットにすべて保管され、情報管理はファイル室1か所に限定されていました」(Rios、2018年)。

データが手書きである以上、ヒューマンエラーの可能性があります。 例えば、ある検査員がうっかり厚さ測定値を書き間違えて、誤った厚さ測定を報告してしまい、それが費用の掛かる不要なメンテナンスにつながり、さらには資産の故障を引き起こす可能性もあります。 また、手書きの測定値は検査員のメモから公式のレポートやデータベースに転記して、検査を効果的に保存し、経過を追う必要があります。 測定データに転記が複数回になれば必ず、誤りの可能性が高くなります。 このように長期にわたる手書きのデータ記録プロセスは誤りを生みやすく、非常に効率が悪いものでしたが、当時はほかに手立てがありませんでした。

デジタルデータログの出現

厚さ計を使用したデジタルデータログ

1980年代、厚さ計に内蔵データログ機能と波形表示が追加されました。 1990年代には、デジタル信号処理がアナログ回路にとって代わり、安定性と再現性が向上しました(「超音波厚さ計の歴史」、日付なし)。 テクノロジーが向上を続けるにつれて、ユーザーは厚さ測定値を厚さ計の内蔵データロガーに保存できるようになりました。 これに伴って、データ転送、レポート作成、および過去の検査のアーカイブを容易にする、互換性のあるインターフェースプログラムへのニーズが生まれました。 資産所有者や検査サービス提供業者(ISP)を含む複数の企業が、独自の検査データ管理システム(IDMS)を開発し始めました。 これらのIDMSプログラムによって、データの追跡と効果的な管理が可能になり、過去の検査データを将来のメンテナンス予測に役立てられるようになりました。

IDMSアプリケーション

現在、人気のあるIDMSアプリケーションとしては、UltraPIPE/PS AIM、PCMS、Meridium、ACET、Aware、RBMIがあります(Rios、2018年)。 これらのプログラムは、資産管理を改善していた上位所有者/オペレーターの多くがすぐに取り入れました。 IDMSプログラムでは、手書きデータに頼る代わりに、検査が必要な資産に基づいて機器互換性のある検査ファイルを生成できます。 これらのファイルは、2Dグリッドやボイラーなどさまざまな形式で設定でき、検査員が測定する際に必要なすべての状態監視位置(Condition Monitoring Location:CML)が含まれています。 長期にわたって検査を追跡しやすいように、ファイル名はジョブや資産に関連付けることができます。 デジタル形式なので、測定の一貫性とデータの完全性は改善されました。 ファイルを作成すると、USBまたはRS-232ケーブル経由で互換性のある超音波厚さ計に転送できます。 オフィスにいるデータ分析担当者は、検査員の作業シフトが始まる前に、必要なすべての検査ファイルを彼らが使用する機器に提供することができます。 必要なすべてのデータが機器にロードされると、検査員は現場に赴き、指定されたCMLで必要なすべての厚さ測定を実施できます。 結果を手書きするのではなく、厚さ計の内蔵データロガーに厚さ測定値を(必要であれば波形/A-スキャンも)保存できるようになりました。 検査が完了すると、検査員は機器をオフィスに持ち帰ります。データ分析担当者はケーブルを接続し、機器からインターフェースプログラムにファイルを転送します。

この改善されたプロセスでは結果を手書きする必要はなくなりましたが、データを互換性のあるインターフェースプログラムに転送するために、現場から戻ってくる必要がありました。 このことは、データ分析担当者がデータを確認するためには、機器を受け取り、ファイルの転送が完了するまで待たなければならないことも意味します。 再検査が必要な誤りが見つかるのは、検査員が別のプロジェクトに移動した後である場合がほとんどでした。 このプロセスはデータの完全性には役立ったものの、なお非効率的でした。

リムーバブルメモリーカード

このプロセスを改善した別の技術的進歩は、SDカードなどのリムーバブルストレージメディアを厚さ計に組み入れることです。 ワークフローが改善し、データ分析担当者がメモリーカードに検査ファイルをいっぱいに読み込むと、検査員がそれらのファイルを自分の厚さ計にインポートし、必要な測定値をすべて保存した後、更新済みファイルをSDカードにエクスポートできるようになりました。 リムーバブルストレージメディアを使用すると、データの転送に必要なのはカードだけなので、機器は現場にそのままにしておけます。 このプロセスでは改善はあったものの、なお時間がかかり、機器から分析担当者への物理的なデータ移動が必要でした。

現在のワークフローの課題とペインポイント

現在の厚さ計にはデータログ機能があり、さまざまな機器対応のIDMSプログラムを利用できるにもかかわらず、手頃でやり慣れている手書きによる方法を未だに選んでいる企業があります。 データログ機能とIDMSプログラムを導入した企業でも、それぞれ課題に対処しています。 例えば、こうしたプログラムは高価であることが多く、ソフトウェアのアップグレードに追加料金が必要になることもよくあります。 このことから、通常、検査会社ではなく所有者/オペレーターがソフトウェアライセンスを所有しています。 すべての所有者/オペレーターが同じIDMSプログラムを使用しているわけではないため、検査会社が互換性を維持しようとすると、難易度と費用が高くなります。 機器とインターフェースプログラムとの互換性が問題になる場合もあります。古いバージョンのソフトウェアが新しいバージョンの機器ファームウェアと連動しないことがあるためです。 デバイスドライバーとコンピューターのファイアウォールの対処も問題になることがあります。 さらに、デジタルデータ収集では、機器のデータロガー機能に関する優れた実用的知識が検査員に求められます。

課題のまとめ

手書きおよびデジタルファイル転送の主なペインポイントは以下のとおりです。

手書きの結果

  • 転記ミスの可能性がある
  • データを最終形式にするまでに複数のステップが必要なため効率が悪い
  • 現在および過去の検査結果の整理・管理が困難
  • 修正の要請や予期せぬシャットダウンにより費用がかかる

デジタルファイル転送

  • 現地から機器を戻す必要があるため効率が悪い
  • IDMSプログラムへの高額な投資
  • データ転送時の互換性エラー
  • 機器データロガーについて追加のトレーニングが必要

IDMSプログラムの使用にはいくつかの解決しない問題があるものの、明確な価値があります。 これらのプログラムには、現在のすべての資産について履歴データが含まれているため、所有者/オペレーターは必要なメンテナンススケジュールを予測しやすくなります。 また、こうしたプログラムでは相当なレベルのカスタマイズが可能であるため、エンドユーザーはニーズに特化したプログラムを作ることができます。

クラウドコンピューティングの利点

OSC 3.0 IPMアプリ

企業はIDMSプログラムに相当な額の投資を行ってきました。 検査員はソフトウェアのワークフローに慣れており、企業はこれらのプログラムがもたらす価値を理解しています。 しかし、上記のように問題はなお存在します。 こうした課題に対処するため、オリンパスはクラウドベースのオリンパスInspection Project Manager(IPM)アプリを作成しました。 IPMアプリは、データ管理効率の向上、プロジェクトステータスの表示の改善、検査員・データ分析担当者・意思決定者間の協調の促進によってユーザーを支援します。

ワイヤレスデータ転送

業界が手書きの結果から検査ファイルの有線転送に進化しましたが、次のステップはケーブルを除去し、接続された機器と安全で確実なクラウドアプリケーションを使用してワイヤレス転送機能を提供することです。 ワイヤレス転送機能が有効になると、現在、IDMSプログラムによって転送されているのと同じファイルをIPMクラウドアプリにエクスポートおよびアップロードできます。 オフィスでプロジェクトを作成・管理して、インターネット接続があれば世界中どこにいる検査員へもタスクを転送できるのを想像してみてください。 現場にいる検査員が機器をモバイルホットスポットまたはワイヤレスローカルエリアネットワーク(WLAN)に接続すると、検査ファイルが検査員の機器に直接ダウンロードされます。 検査員は必要なすべての測定を行うと、ファイルをIPMクラウドアプリにアップロードして、データ分析担当者と意思決定者に確認してもらうことができます。 検査現場からデータを転送するための迅速、効率的、かつ信頼性の高い方法であり、意思決定スピードも増します。 すべてのデータはデジタル形式で保たれるため、手書きの結果が必要なくなり、ヒューマンエラーの可能性は大幅に小さくなります。 データはIPMアプリで確認でき、データの品質に応じて、再検査が必要であればファイルを再転送することも、各種形式でエクスポートし、IDMSプログラムにアップロードして、統計的分析や資産の機械的完全性の更新を行うこともできます。

アイソメトリック図

現在、多くの検査員は厚さ測定値を回路図に手書きしており、測定値をデータ分析担当者に手渡しする必要があります。 IPMアプリを将来更新するために現在開発中のテクノロジーの進歩では、測定値を厚さ計からデジタルアイソメトリック図にほぼ即時にワイヤレス送信することができます。 検査員は現場にいながらにして、その回路図の厚さ測定値を更新できるようになるため、時間と費用の節約につながります。

また、ユーザーは資産またはCMLの写真をタブレットのカメラで撮影し、この情報を厚さ測定値とともに含めることができるようになります。 これらすべての情報はデジタル形式で保持され、意思決定者が確認するためにクラウドに保存できるようになります。 これらの文書は追跡可能な形式に簡単に変換でき、IDMSプログラムにアップロードして後で検索できるようになります。 今後のアプリ機能強化によって、データ完全性の大幅な向上、再検査ニーズの削減、そして最終的には検査の完了に必要な時間の削減が実現することを信じています。

人員および資産の管理

IPMクラウドアプリは、あらゆるプロジェクト、ジョブ、タスクについて人員と機器をより効果的に管理するためにも使用できます。 検査のすべての段階の進捗がダッシュボードに示されるので、リソース管理が改善されます。 作業指示書やサイトマップなど関連するすべての検査文書をタスクに含めることができ、検査員はこれらの文書を簡単に参照できます。

上記の利点は、接続された機器とオリンパスのクラウドアプリケーションを使用すれば実現します。 こうしたソフトウェアソリューションは検査員、マネージャー、資産所有者に価値を提供する一方で、有線式のIDMSの採用を制限する障害があったため、多くの企業が紙とペンを使用するやり方に後戻りすることになりました。 これらの課題を強調して解決できるようにすることが重要です。新しいテクノロジーは最終的に業界全体に利益をもたらすからです。

クラウドコンピューティングの課題とソリューション

インターネット接続が貧弱またはまったくない環境

インターネットに関連するソリューションを使用する場合、強力で信頼性の高いワイヤレス接続があることが不可欠です。 どんなに高性能の携帯電話、タブレット、またはラップトップだとしても、インターネット接続が弱ければ、性能と顧客経験が損なわれることになります。 多くの検査現場にはWLAN接続がありません。 この状況は将来的には変わる可能性がありますが、現時点では別の方法を採用する必要があります。 4Gや5Gなどのデータサービスを使用するのは解決策になるかもしれませんが、携帯電話サービスの提供外の場所で検査を実施する場合があります。

リアルタイムデータ転送の利点はすべての状況で可能ではないものの、ユーザーはピアツーピア接続を使用したワイヤレスデータ管理のデータ完全性と効率性の改善による恩恵を受けています。 このシナリオでは、クラウドアプリケーションのオフラインモードで、ピアツーピア接続を介したワイヤレス対応厚さ計との相互作用が可能になります。 インターネット接続があれば、検査員は必要なすべての文書や相互作用アイソメトリック図をダウンロードし、ローカルマシンに保存できます。 現場に出たら、ピアツーピア接続経由で厚さ計をタブレットに接続し、必要なすべての検査ファイルを更新して、あらゆるものをデジタル形式で保持することができます。 更新されたファイルは保存して、検査員がインターネット接続のある場所に戻り次第、自動アップロードすることができます。 データ分析担当者が数千キロ離れた場所にいても、検査ファイルが自動的にアップロードされると通知されるので、クラウドアプリケーションにサインインしてデータを確認し、それをIDMSプログラムにアップロードし返すことができます。 何か懸念事項や再検査要求があれば、検査員がまだ検査現場のそばにいる間に連絡をとることができます。

データセキュリティ

クラウドコンピューティングのもう一つの障害はデータセキュリティです。 「世界中の企業は、進化する膨大なセキュリティ脅威にさらされ続けており、脅威に対処する能力のあるセキュリティ人材を確保しています」(Shah、2018年)。産業検査業界も例外ではありません。 クラウドアプリケーションがますます一般的になる一方で、すべて同じレベルのセキュリティを提供しているわけではありません。 独自のクラウドアプリケーションを開発している多くの企業は、非破壊検査分野は専門ですが、クラウドセキュリティは専門分野ではないようです。 この問題に対処するため、オリンパスはデータセキュリティを専門とするクラウドプロバイダーであるMicrosoftと連携しています。 重要なのは、「カスタマイズされたハードウェアで構築されたクラウドに頼ること、セキュリティコントロールがハードウェアおよびファームウェアコンポーネントに統合されていること、脅威に対して保護を追加すること」です(Shah、2018年)。 すべてのクラウドプロバイダーが同じように作られているわけではないため、非常に高いセキュリティレベルで保護することが、クラウドソリューションを産業市場に送り出そうとしているすべての企業にとって最優先されるべきです。

アクセス性

最後の障害は、インターネット接続とアクセス性をユーザーアカウントセキュリティと結びつけます。 情報技術が進歩するにつれ、誰かをリモートでログインさせたり、顧客や同僚のマシンを制御して支援したりする考えが、広く受け入れられ始めました。 一般に、これは関連する当事者が同じ企業ネットワーク上にあるセキュアポータルを介して行われます。 この状況は、当事者が2つの別々の企業であり、それぞれが独自のファイアウォール保護と保護されたワイヤレスネットワークを構築している場合に、さらに困難になります。 産業界のリーダー達は、さらなる協調を図るためにクラウドコンピューティングテクノロジーを継続的に前進させており、エンドユーザーがクラウドによってもたらされる利点を完全に利用できるよう、新しい効果的な連携調方法が開発されるという希望を与えています。

結論

このような検査実行方法の改善によって、データの完全性が大きく強化され、全体の効率が上がりますが、誤った超音波測定に関するヒューマンエラーのリスクはまだ存在します。 超音波厚さ計を使用して測定値を収集する人は、波形(A-スキャン)に基づいて有効な測定値を成すものを理解する必要があります。 オリンパスを始めとする一部の機器メーカーは、検査員によって起こりやすいエラーに基づいたユーザー警告機能を内蔵させています(通常は校正プロセス中)。 機器側に追加する安全機能の開発は続けていますが、十分な訓練を受けた知識豊富な検査員に代わるものはありません。

クラウドアプリケーションとIoT機器は消費者市場にとって目新しいものではなく、工業分野で急速に重要性を現しています。 このデジタル革命は、産業用検査の実施方法とデータ管理を大きく変える可能性があります。 あらゆる大きな変化は、解決しなければならない課題を伴います。 テクノロジーと人間の考案が変化を続けるにつれて、さらなるソリューションが現れることでしょう。 意味ある進展を遂げるカギは、業界からのフィードバックに耳を傾け、テクノロジーの進歩を利用して産業を前進させる方法について、あらゆる関係者とともに話し合いの場を持つことです。

出典

Rios, Efrain. “Inspection Data Management Systems Part 1: An Overview of Common Issues and Causes.” Fortress Oil & Gas, LLC, March 21, 2018. https://www.fortressoilandgas.com/blog/asset-integrity-consultants/inspection-data-management-systems-part-1-an-overview-of-common-issues-and-causes/.

Shah, A. (2018, April 17). The 3 ways Azure improves your security. 2019年10月13日入手。https://azure.microsoft.com/en-us/blog/the-3-ways-azure-improves-your-security/

「超音波厚さ測定 チュートリアル 超音波厚さ計の歴史」 超音波厚さ計の歴史 | Olympus IMS。 2019年10月13日アクセス。https://www.olympus-ims.com/en/ndt-tutorials/thickness-gage/introduction/history/

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