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事例・お役立ち資料

超音波探傷検査について

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Tom Nelligan著

業務用の超音波検査の中で探傷検査は、最も古い歴史があり、現在でも広く利用されています。1940年代になって、固体における音波の伝搬を支配する物理法則を利用して金属、複合材、プラスチック、セラミックの内部にある目に見えない割れ、剥離、空隙及び内部の亀裂などの欠陥が、検査されるようになりました。傷から反射された高周波の音波は、特長あるエコーパターンとしてポータブル探傷器に表示され、記録されます。超音波検査は、試料を破壊することのない安全な検査であるだけでなく、製造や工程、サービス分野、特に溶接や構造用金属に関係する多くの分野で利用され、確立された検査手法です。このページでは、超音波探傷検査の理論と応用について説明します。ここでは全体像のみを説明するため、詳細情報については、このページの最後にある参照一覧をご覧ください。

1. 基本理論:音波は固体、液体、気体などの媒質を通過して伝搬する規則的かつ機械的な振動です。音波は、予測された方向に向かって一定の速度で媒質を通過し、異なる媒質と接した境界で単純なルールに従って反射するか、または伝播されます。これが超音波探傷検査の基礎となる物理法則です。

周波数:すべての音波は、特定の周波数(または振動数)で振動します。Hz(1秒間の振動数)で表される周波数は人間には、音の高低として知覚されます。人間の可聴範囲は、最大約20,000Hz(20KHz)ですが、超音波探傷検査の用途の大半では50万~1,000万Hz(500KHz~10MHz)までの周波数が使用されます。MHz単位の音波は、空気などの気体では伝搬効率は低下しますが、一般的な液体や工業用材料では効率的に伝搬されます。

速度:音波の速度は、通過する媒質によって異なります。これは、媒質の密度や弾性が影響するためです。音波の種類が異なると(後述の「伝搬モード」参照)伝搬の速度も異なります。

波長:音波は、波長と密接に関係しています。波長は媒質を通過する波動サイクルの2つの地点間の距離です。音波と周波数、速度の関係は、次の通り単純な計算式で表されます。

λ=c/f
ただし
λ=波長
c=音速
f=周波数

波長は、音波の動きから取得する情報量を制御する制限因子です。超音波探傷検査では、一般的に細かい傷の検査の下限は2分の1波長です。それ以下になると表示されません。超音波厚さ測定では、理論的には測定可能な最低1波長の厚みを測定できます。

伝搬モード:固体を伝播する音波には、その運動方法によってさまざまなモードがあります。縦波および横波は、超音波探傷検査では最も一般的に使用されます。表面波やラム波が使用されることもあります。

- 縦波や圧縮波では、音波が伝播するときにピストン音源から同一方向に粒子運動が起こります。可聴音は縦波です。

- 横波における粒子運動は、音波の伝播する方向と垂直の関係にあります。

- 表面波では、楕円形の粒子運動が起こって物質の表面全体に伝搬し、約1波長の深度まで浸透します

- ラム波は、材料の厚みが1波長を下回る薄い板で複雑な振動状態が起こる場合に使用され、媒質の断面全体に伝播されます。

音波は、種類を変更することができます。一般的な例としては、指定した角度で縦波を使用し、試料内で横波を生成させます。これはセクション4の「斜角探傷検査」で説明します。

音波の伝播を制限する可変要素:一定周波数の音波の距離とエネルギーレベルは、通過する物質によって異なります。一般的には、固く同質の物質の方が、柔らかく異質の物質または粗い物質よりも効率的に音波が伝搬します。特定の媒質を音波が伝搬するときの距離を支配する要素には、音波ビームの拡散、減衰、散乱の3つがあります。拡散は、ビームが伝播するときに先端部分が拡大して音波のエネルギーが広範囲に広がることを意味し、結果的にエネルギーは浪費されます。減衰は、媒質を通して音が伝播するときにエネルギーが失われることを意味します。波面が前進すると一定量のエネルギーが吸収されます。散乱は、粒状の境界や同様の微細構造からの音響エネルギーのランダムな反射です。周波数が上昇するとビームの拡散も増加しますが、減衰と散乱の効果は減少します。用途やこのような要素に合わせてトランスデューサの周波数を選択します。

境界での反射:音響エネルギーが物質に伝搬するときや他の物質との境界に到達すると、エネルギーの一部が反射して伝搬されます。反射するエネルギー(反射率)は、2つの物質の相対的な音響インピーダンスに関係します。音響インピーダンスとは、物質の密度に音速を乗算した値で定義される材料特性です。任意の2つの物質に入射するエネルギーの圧力をパーセントで示す反射率を計算するには、次の計算式を使用します。
Z2 - Z1
R = ----------
Z2 + Z1

ただし
R=反射率(反射したエネルギーの割合)
Z1=最初の物質の音響インピーダンス
Z2=2番目の物質の音響インピーダンス
超音波探傷検査における一般的な金属と空気の境界では、反射率は100%に近くなります。音響エネルギーは、実質的にすべて音響経路にある割れなどの欠陥で反射されます。これが超音波傷検査の基本原理です。

反射と屈折の角度:超音波の周波数における音響エネルギーは指向性が強く、探傷検査に使用される音波ビームは明確に定義されています。音波が境界で反射する場合、反射の角度は入射の角度と同一です。音波ビームは、表面に垂直に当ると垂直に反射します。音波ビームが斜め方向から表面に当たると同じ角度で反射します。


ある物質から別の物質に伝搬する音響エネルギーは、屈折のスネイルの法則に従って屈折します。また、垂直に当たるビームは垂直方向のままですが、境界に斜めに当たるビームは次の計算式が示すように屈折します。

Sin Ø1 V1
-------- = -----
Sin Ø2 V2


ただし
Ø1=最初の物質の入射角
Ø2=2番目の物質の屈折角
V1=最初の物質の音速
V2=2番目の物質の音速
この関係は斜角法の検査では重要な要素になってきます(セクション4参照)。



2. 超音波トランスデューサ (超音波探触子)
トランスデューサは、広い意味で、エネルギーをある形から別の形に変換するデバイスと言えます。超音波トランスデューサは、電気エネルギーを高周波の音響エネルギーに、音響エネルギーを電気エネルギーにそれぞれ変換します。




般的な接触型トランスデューサの断面
超音波傷検査で使用する一般的なトランスデューサでは、圧電性のセラミック、複合材料またはポリマーで造られた振動子が用いられます。この振動子が高圧の電気パルスで励起されると、周波数の特定のスペクトラムが振動して音波が連続して発生します。入射する音波によって振動が起こると、電気パルスが生成されます。振動子の正面は通常、損壊から保護するためにウェアプレート(耐磨耗板)で覆われています。また、背面には音が発生したときに機械的に振動を抑制するため、バッキング材が使用されています。超音波周波数の音響エネルギーは、気体では伝搬効率が低下するためトランスデューサと試料の間に、薄い層を作るカップリング液またはジェルが使用されます。


一般的な探傷検査で使用される超音波トランスデューサには、次の5種類があります。

- コンタクトタイプ・トランスデューサ:コンタクトタイプ・トランスデューサは名前の通り、検査対象に直接接触させて使用します。表面に対して垂直に音響エネルギーを生成し、剥離や空隙、割れまたは試料の外側表面に平行に存在する層間剥離、厚みの測定などに使用します。

-斜角トランスデューサ:斜角トランスデューサは、プラスチックまたはエポキシ樹脂の斜角を使用して、試料の表面に対して指定した角度で横波や縦波を当てます。主に溶接の検査に使用します。

-遅延材タイプ・トランスデューサ:遅延材タイプ・トランスデューサは、振動子と試料の間に使用するプラスチック製の短い導波管や遅延材を装備しています。表面近くの分解能の改善、または高温での検査で熱損傷から振動子を保護する必要のある場合に使用します。

-水浸型トランスデューサ:水浸型トランスデューサは、試料内に音響エネルギーを伝搬する際に水柱や水槽を利用します。自動走査や焦点を絞ったビームで傷の分解能を改善する必要がある場合に使用されます。

-デュアルエレメント・トランスデューサ:デュアルエレメント・トランスデューサは、送信用と受信用の個別素子を1つの組立て部品として利用します。粗い表面、粗粒の物質、穴や空隙の検査などに使用され、高温での使用にも耐えられます。

トランスデューサの種類別の利点および周波数範囲と直径については、トランスデューサを参照してください。

3. 超音波探傷検査
Panametrics-NDT Epochシリーズをはじめ最新の超音波探傷検査器は、マイクロプロセッサをベースにした小型携帯用の測定器で、屋内と屋外の用途に対応しています。超音波探傷検査器で検出し表示された超音波波形は、熟練したオペレータが解析しますが、解析ソフトウエアを使用して試料の傷の特定や分類を行う場合もあります。超音波傷検査器には通常、超音波パルサーレシーバ、信号のキャプチャと解析用ハードウェアおよびソフトウエア、波形表示、データ記録モジュールなどの機能が搭載されています。アナログベースの探傷検査器は現在でも製造されておりますが、最新の装置では安定性と精度向上のためデジタル信号が使用されています。
パルサーレシーバは、探傷検査器の超音波を表示する前面部にあります。パルサーレシーバで発生した励起パルスによってトランスデューサから音波が送られ返ってきたエコーは、増幅、フィルタリングされます。また、パルスの増幅、形状、減衰を制御してトランスデューサのパフォーマンスを最適化し、レシーバの感度や帯域幅は、S/N比を最適にするための調整が可能です。

最新の探傷検査器は通常、デジタルで波形をキャプチャし、さまざまな測定や解析が行われます。トランスデューサのパルスを同期して距離校正を行うには、時計やタイマーを使用します。信号の処理には、信号振幅と校正スケールの時間との対比を波形で表示するシンプルな方法もあれば、距離 / 振幅の修正や角度のある音波経路を計算する三角法を取り入れた高度なデジタル処理を必要とする複雑なアルゴリズムを用いる方法もあります。また、波列の指定した地点での信号レベルを監視し、傷からのエコーを警告するためアラームゲートを使用する場合もあります。

モニタにはCRT、液晶または電子発光ディスプレイなどが使用されます。画面は通常、深さや距離の単位で校正されます。マルチカラーディスプレイを使用すると解析も簡単になります。
内蔵された記録系は、書類作成上必要に応じて各検査に関するすべての波形およびセットアップ情報、またエコーの増幅、深さや距離の読み込みに至る選択情報、アラームの有無などすべて記録するために使用します。

4. 手順
超音波探傷検査器は、比較技術に基づいています。一般的に利用されている検査手順に従って、適切な基準試験片と音波伝搬の知識を持った熟練したオペレータが、問題のない部分からのエコー応答と傷からのエコー応答を比べて、エコーパターンの相違を識別します。その後、試料からのエコーパターンをこれらの校正基準のパターンと比較して条件を判断します。


-垂直ビーム試験:垂直ビーム試験では、コンタクトタイプ、遅延材型、デュアル・エレメント、水浸型のトランスデューサを使用し、割れや試料の表面に平行に存在する層間剥離、剥離や空隙を検出します。これは、媒質を通過する音響エネルギーは「底面の周囲の空気や割れの内部にある他の物質との境界から散乱、または反射するまで伝播する」という基本原理を応用しています。試験では、オペレータがトランスデューサと試料を組み合わせ、試料の底面から返されるエコーの位置を特定した後、その底面のエコーより先に到達したエコーを検出し、粒子によるノイズがある場合はそれを差し引きます。底面エコーより先に到達するエコーが重要なのは、層に割れや剥離があることを示唆しているためです。さらに分析すれば、エコーを返す構造体の深さ、サイズ、形状などが特定できます。


音響エネルギーは、試料の底面に伝搬しますが、層に割れや亀裂などの欠陥がある場合は、反射までの時間が短くなります。

特別な検査では、試料の両側に設置した2個のトランスデューサ間で音響エネルギーが伝播する伝送方式を採用します。音響経路に大きな傷がある場合は、ビームは妨害されて音響パルスはレシーバまで到達しません。

斜角試験:試料の表面に対して垂直方向に存在する割れや不連続部分などの欠陥、または表面に傾斜がある場合は、音響ビームに対する欠陥の方向が原因となって、垂直ビーム試験では識別されません。このような欠陥は、溶接部分や構造用金属部品をはじめ重要な部品に発生する可能性があります。こうした欠陥は、指定した角度で試料に音響エネルギーを送ることができる一般的な斜角トランスデューサ、または水浸トランスデューサを選択し、斜角法を使用して検出します。斜角試験は、溶接の検査で広く利用されています。

通常の斜角トランスデューサは、モード変換とスネイルの法則を使用して試料の指定した角度(一般的には30°、45°、60°、70°)で横波を生成します。表面に入射される縦波の角度が増加すると音響エネルギーの増加分が2番目の物質では横波に変換され、角度が十分な高さに達すると2番目の物質のすべてのエネルギーが横波になります。このモード変換の現象を利用して一般的な斜角を調整する場合には、2つの利点があります。1つは、鋼鉄や類似の材料において横波が発生するときの入射角度では、より効率的にエネルギーが伝搬されることです。もう1つは、一定の周波数で横波の波長は比較対象となる縦波の波長の約60%であるため、最小サイズの傷の分解能が横波を使用すると向上することです。



通常の斜角アセンブリ


角度のある音響ビームは、試料の底面に対して垂直方向にある傷(ビーム路程W0.5S)、または底面で反射した後に入射する表面に対して垂直方向にある割れ(ビーム路程W1.0S)に対して、検査では感度が高くなります。検査対象部分の形状や傷の種類によって、ビームの角度やプローブの位置を変更しますが、その場合は、ASTM E-164やAWSの構造物溶接規格など適切な検査規格や手順で詳細を確認します。


ウェブサイト

NDT Resource Center Introduction to Ultrasonic Testing

NDT Net Ultrasonic Testing Encyclopedia
Print
American Society for Nondestructive Testing, Nondestructive Testing Handbook, (米国非破壊試験協会)Volume 7, Ultrasonic Testing
ASM International, Metals Handbook, Volume 17, Nondestructive Evaluation and Quality Control

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