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超音波フェーズドアレイ チュートリアル - 目次

超音波探傷検査について

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多くの方は医療用途の超音波イメージングになじみがあることでしょう。医療用途では、高周波音波を使用して内臓器官の精密な断面画像が生成されます。一般に医療用の超音波診断器は、フェーズドアレイという特殊な複数素子探触子と、付随するハードウェア、ソフトウェアから構成されます。しかし、超音波フェーズドアレイ技術の用途は医療診断に限りません。フェーズドアレイシステムは工業環境でも使用され、一般的な非破壊超音波試験では、新たなレベルの情報や可視化がもたらされています。このような試験には、溶接部検査、ボンドテスト、厚さプロファイリング、稼働中探傷などがあります。フェーズドアレイNDT検査と従来の超音波探傷の違いについて、読み進めていきましょう。

1. 超音波フェーズドアレイとは何か

NDT用の従来の超音波探触子は、一般に、高周波音波の生成と受信をどちらも行う単一の能動素子か、一方は発信、もう一方は受信を担う、対になった2つの素子のいずれかで構成されています。それに対してフェーズドアレイプローブは、個別にパルス発信可能な小さな素子を、16個から最大256個も含む探触子構造になっています。これらの素子は、帯状(リニアアレイ)、リング状(環状アレイ)、円形マトリクス(円形アレイ)、またはさらに複雑な形状に配列されます。

従来型探触子と同様に、フェーズドアレイプローブには、直接接触用(ウェッジ付きの斜角プローブの一部として)、または水中路程での音響結合による水浸探傷用の設計があります。一般的な探触子周波数は、2 MHz~10 MHzです。フェーズドアレイシステムには高度なコンピューターベースの装置も含まれていて、複数素子プローブの駆動、戻ってきたエコーの受信とデジタル化、そのエコー情報のさまざまな標準形式によるプロットが可能です。従来型探傷器とは異なり、フェーズドアレイシステムでは、広い範囲の反射角全体または線形経路に沿って音波ビームをスイープすることも、さまざまな深さで動的に集束させることもできます。こうした理由から、フェーズドアレイシステムは検査セットアップの柔軟性と機能性の両方を向上させられます。

phased array probes
標準的なフェーズドアレイプローブ

array
標準的な複数素子の構造

2. フェーズドアレイシステムはどのように機能するか

最も基本的な意味では、フェーズドアレイシステムは波が持つ位相整合の物理原則を用います。このシステムは次々に発信される超音波パルスの時間間隔を変えます。アレイ内の各素子によって生成された個々の波面が相互に結合して、エネルギーを予測可能な方法で付加または打ち消し、音波ビームのステアリングと形成を行います。

このようにするには、個々のプローブ素子のパルス発信を少しずつずらします。多くの場合、素子からのパルス発信は、開口幅を大きくして4~32個のグループずつ行い、有効感度を向上させています。不要なビームの拡がりが少なくなり、集束が強まります。フォーカルロウの計算機能と呼ばれるソフトウェアによって、素子グループごとの発信の遅延時間が定められ、必要なビーム形状が形成されます。プローブとウェッジの特性のほか、試験体の形状や音響特性が考慮されます。次に、装置の基本ソフトウェアにより選択されたプログラムパルス発信シーケンスが、試験体内にたくさんの波面を生成します。波面が強め合ったり弱め合ったりして単一の主要波面となり、試験体内を伝搬して、従来の超音波のように亀裂、不連続部、底面、その他の材料界面で反射します。ビームはさまざまな角度、焦点距離、焦点サイズで動的にステアリングできるので、単一のプローブで幅広い角度にわたり試験体全体を検査可能です。このビームステアリングは高速に行われ、複数の角度または複数の焦点深度のスキャンをほんの一瞬で実施できます。

戻ってきたエコーはさまざまな素子や素子のグループで受信され、必要があれば時間をずらして、変動するウェッジ遅延を補正してから合計されます。領域に当たるすべてのビーム要素の効果を合わせる従来の一振動子型探触子とは異なり、フェーズドアレイ探触子はその素子への到達時間と振幅に従って、戻ってきた波面を空間的に並べ替えることができます。探傷器用ソフトウェアで処理すると、戻りの各フォーカルロウは、ビームの特定の角度成分からの反射、線形経路に沿った特定ポイント、特定の焦点深度からの反射を表します。エコー情報は複数の形式で表示できます。

変動遅延を利用して平面プローブで生成される斜角ビームの例

集束するリニアスキャンビームの例

3. 画像はどのように表示されるか

ほとんどの標準的な探傷器と厚さ計において、超音波試験データは、処理されたRF波形から得た時間と振幅の情報を基にしています。これらの波形と、そこから抽出された情報は、一般に4つの形式(A-スキャン、B-スキャン、C-スキャン、S-スキャン)のうちの1つ以上で表されます。このセクションでは、従来型の探傷器とフェーズドアレイシステムの画像表示例をいくつか紹介します。

4. A-スキャン表示

A-スキャンは時間と超音波信号の振幅を示す単純なRF波形表示で、一般に従来型の超音波探傷器と波形表示厚さ計で見られます。A-スキャン波形は、試験体内の1つの音波ビーム位置からの反射を表します。下の探傷器のA-スキャンは、鉄鋼製の標準試験片に付けられた2つの横穴からのエコーを示しています。一般的な一振動子の直接接触型探触子からの柱状音波ビームが、3つの穴のうち2つをとらえ、穴の深さに比例した異なる時間で2つの別々の反射が生成されています。

一般化されたビーム形状 垂直ビームのA-スキャン画像


従来型探傷器とともに一振動子型斜角探触子を使用すると、1つの斜角路程に沿ってビームが生成されます。指向角作用によって距離とともにビーム径が増加するのに対し、従来型斜角ビームの検査対象域(視野)は基本的に1つの斜角路程に限定されたままです。下の例で、1つの固定位置にある45度ウェッジは、試験片の横穴のうち2つがビーム内に収まるため、これらを検出できます。しかし、3つ目は探触子を前に動かさないと検出できません。

一般化されたビーム形状
斜角ビームのA-スキャン画像


フェーズドアレイシステムでは参照のためにA-スキャン波形が表示されますが、下に示すように、ほとんどの場合はB-スキャン、C-スキャン、またはS-スキャンによって補足されます。これらの標準イメージング形式は、試験体の欠陥の種類や位置を視覚化する上で役立ちます。

5. B-スキャン表示

B-スキャンは、試験体の1縦方向をスライスした断面図を示す画像で、線形位置に関する反射源の深さを表します。B-スキャンイメージングでは、試験体の選択した軸に沿って、機械的または電子的に音波ビームをスキャンしながら、関連データを保存する必要があります。以下に示す例では、B-スキャンに深い反射源2つと浅い反射源1つが示されており、試験片の横穴の位置に対応しています。従来型探傷器の場合、探触子を試験片上で横方向に動かす必要があります。

一般化されたビーム形状 相対的な穴の深さを示す標準的なB-スキャン


一方、フェーズドアレイシステムでは、リニアアレイプローブの長さに沿った電子スキャンを使用して、探触子を動かさずに同様の断面図を作成します。

リニアアレイの長さ全体の相対的な穴の位置と深さを示す、電子リニアスキャン(B-スキャン)画像

6. C-スキャン表示

C-スキャンは、試験体の上面図または平面図としてデータを二次元で表示します。これはグラフィック方式がX線画像に似ていて、試験体の各ポイントのゲート内にある信号振幅が色で表され、それぞれのX-Y位置にマッピングされます。従来型探傷器の場合、試験体上で一振動子型探触子をX-Y 2軸スキャンパターンで動かす必要があります。フェーズドアレイシステムでは、プローブが物理的に一方の軸に沿って移動すると同時に、ビームが他方の軸に沿って電子的にスキャンします。試験体に対するスキャン画像の正確な形状を保持する必要がある場合、通常はエンコーダーを使用しますが、エンコードを行わない手動スキャンでも有用な情報が得られるケースは多々あります。

以下に示す標準試験片のC-スキャン画像は、集束水浸型探触子とともに従来型水浸スキャンシステムで生成したものと、エンコードハンドスキャナーとリニアアレイを使用したポータブルフェーズドアレイシステムで生成したものです。グラフィック解像度は完全に同等ではない一方で、別の考慮事項があります。フェーズドアレイシステムは、従来型システムとは異なり現場に持ち運びができ、費用は約3分の1です。さらに、フェーズドアレイ画像は数秒で生成されますが、従来型の水浸スキャンでは数分かかります。

一般化されたビーム形状と移動方向 穴の位置を示す従来型C-スキャン画像

一般化されたビーム形状と移動方向 穴の位置を示すフェーズドアレイC-スキャン画像

7. S-スキャン表示

S-スキャン(セクタースキャン)画像は、時間遅延と屈折角についてプロットされた一連のA-スキャンから派生した、2次元断面図を表します。横軸は試験体の幅に、縦軸は深さに対応します。これは医療用の超音波診断器のほか、産業用フェーズドアレイ画像で最も一般的な形式です。音波ビームが一連の角度全体をスイープし、円すい形のような断面図を生成します。この例では、ビームのスイープによって、フェーズドアレイプローブは1つの探触子位置から3つの穴すべてをマッピングできています。

左は単一角度成分のA-スキャン、右は合成セクタースキャン。カーソルの49度のマーキングは、表示されたA-スキャンの角度位置を示します。

フェーズドアレイシステムはどこで使用するか

超音波フェーズドアレイシステムは、従来型の超音波探傷器が使用されているほぼすべての検査に採用できます。最も重要な用途は溶接部検査と亀裂検出で、これらの検査はさまざまな業界で実施されています。例えば、航空宇宙、発電、石油化学、金属ビレットおよび金属管製品サプライヤー、パイプライン建設およびメンテナンス、構造物用金属、その他一般製造業等です。フェーズドアレイは、腐食検査アプリケーションにおいて残存肉厚のプロファイルに効果的に使用することもできます。

超音波フェーズドアレイ技術が従来型の超音波検査より優れている点は、複数の振動素子を使用することにより、単一の探触子でビームのステアリング、集束、スキャンができる点です。ビームステアリングは一般的にセクタースキャンと称され、検査対象物を適切な角度でマッピングすることができます。複雑な形状の対象物の検査が非常に簡単になります。接触面積が小さく、探触子を動かさずにビームをスイープできるため、機械的スキャンでは検査対象物へのアクセスが制限されるような状況でも検査が可能になります。セクタースキャンも溶接部検査に一般的に使用されます。単一プローブで溶接部を広視野角で検査できるため、欠陥検出率が飛躍的に高くなります。電子フォーカスは予測した欠陥位置でのビーム形状およびビームサイズを最適化するため、検出率も最適化されます。深さ的にも複数ポイントの集束ができるため、容積検査での重大欠陥サイズの測定能力が高くなります。集束調整により、困難なアプリケーションでSN比を大きく向上させることもできます。また、数多くの振動素子グループ全体にわたる電子集束が可能なため、C-スキャン画像を非常に迅速に作成できます。

フェーズドアレイ技術および装置の詳細については、Evidentまでお問い合わせください。

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