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風力ギアボックスの検査


風力ギアボックスの検査

1. 目視検査の需要の増大

発電コストが原子力や火力より経済的な風力発電は、クリーンエネルギーとして急速に成長している。自然に吹く風は無料なので、風力発電の主なコストは風車と送電網の建設費用とメンテナンス費用である。風車は20年間が寿命と言われているが、20年間メンテナンスフリーと言うわけではない。火力発電所でも年に一度は発電を止めて大掛かりな補修をするように、風車の場合も定期的な点検と補修をしないと20年間の寿命をまっとうする事は出来ない。風車建設後の数年間は風車メーカーが保障期間内のメンテナンスを実施するが、保障期間が終了するとメンテナンスの責任は風車の所有者に移転する。保障期間終了直後に大規模な修理が発生することが無いように、保障期間終了前に検査を行う事が一般化している。この検査では、ギアボックスやブレードを含む風車全体を詳細に検査し、その後のメンテナンスに関して風車メーカーと調整を行うのである。

風車には検査すべき部位はいくつもあるが、高価なギアボックス(=増速機)の健康状態を判断するには工業用内視鏡による目視検査が最も効果的だと言われている。定期的なオイル分析、交換したオイルフィルター内の異物確認、温度センサーや振動センサーの異常感知の際に、内視鏡でギアボックスを目視検査することにより、異常個所の特定と症状を具体的に把握することが出来る。最近では各種センサーにより異常を感知しなくても、6ヶ月から12ヶ月周期で内視鏡検査を定期的に実施し、各種ベアリング(=軸受)や歯車の健康状態を継続的にモニターする手法が一般化してきている。ギアボックスの異常を早めに発見し、大事に至る前にナセル((ギアボックス、ジェネレーター)の上で修理することが出来ると、風車を停止している期間を最小化する事が出来るのである。

2. 風力ギアボックスの構造と、内視鏡検査画像

2. 風力ギアボックスの構造と、内視鏡検査画像風力発電機は、ブレード(翼)、タワー(支柱)、ナセル(ギアボックス、ジェネレーター)から成る。風力発電は、風によって回転するブレードの力が、ローター軸を通じてギアボックスに伝えられる。一般的なギアボックスでは、低速軸、中速軸、高速軸の3軸を介することにより発電効率の高い速度にまで増速され、ジェネレーター(=発電機)を高速で回転させる。

直径が90m ~200mにもなる風車の回転力をジェネレーターに伝えるギアボックスは、過酷な条件下で動作しており、点検・整備が欠かせない。ここでは内視鏡による目視検査の方法と、画像を紹介する。

風車の回転力をジェネレーターに伝えるギアボックス

(1) 高速軸用ベアリング -High Speed Stage Bearing (HSS-B)

(1) 高速軸用ベアリング -High Speed Stage Bearing (HSS-B)発電時、高速軸は毎分1500~1800回転する。この高速軸を前後で支えているのが高速軸用ベアリングである。

高速軸は、発電機に接続されているが、ジェネレーターとギアボックスのアライメント(=軸あわせ)が狂っていると、予期せぬ微振動が発生し、ベアリングが破損する場合がある。また、潤滑オイルに含まれる異物、空気、水分が高速軸用ベアリングを破損する原因になることもある。さらに高速軸用ベアリングは高速で回転しているため、ベアリングローラーが破断するとギアボックスの他の部位が連鎖的に破断し、ギアボックス全体を交換しなければならない事態を招くことになる。従って高速軸用ベアリングを定期的に目視検査することが肝要である。

幸い殆どのギアボックスの高速軸用ベアリングは上部にあるハッチ(=開口)から比較的簡単に内視鏡でアクセスすることが出来る。ベアリングローラーの隙間に内視鏡を挿入し、ローラー表面やインナーレース(=内輪)やアウターレース(=外輪)の微細なキズを検査・記録する。以前の検査結果と比較してキズが拡大している場合は、他の部位に破損が拡大する前に高速軸や、高速軸用ベアリングを風車の上で交換することが出来る。ギアボックスを下ろして修理する場合に比較して、クレーン等のコストに加え、修理期間の発電損失を回避することが出来るのである。

(2) 中速軸用ベアリング -Intermediate Speed Stage Bearing (ISS-B)

(2) 中速軸用ベアリング -Intermediate Speed Stage Bearing (ISS-B)中速軸用ベアリングは、高速軸と低速軸の間に位置する中速軸を前後で支えている。前述の高速軸同様の方法で検査を進めるが、通常内視鏡で検査をする際には高速軸を通過してスコープを挿入する必要があり、検査は難しくなる。そこで、オイル耐性に優れた樹脂とアルミのコルゲートチューブや銅製のチューブに内視鏡を通すことで、挿入性を保つことが出来る。

(3) 低速軸用ベアリング - Low Speed Stage Bearing (LSS-B)

(3) 低速軸用ベアリング - Low Speed Stage Bearing (LSS-B)低速軸を前後で支える低速軸用ベアリングはギアボックスの底に位置している。このため、ベアリングの一部が潤滑オイルに浸かっていることが多い。ギアボックスを回転させながら検査するが、アクセスし難い上に、オイルの付着が多いため、検査は捗らないことが多い。しかし1分間に20~30回転と言う低速で稼動しているため、破損の度合いが少なく、内視鏡による目視検査の頻度は高速軸用ベアリングや中速軸用ベアリングより少ない。

(4) 遊星ギア用ベアリング -Planetary Stage Bearing

(4) 遊星ギア用ベアリング -Planetary Stage Bearingタービンブレードからギアボックスに受ける応力を分散する役割を持つのが遊星ギアである。タービンに当たる風の力は地形の影響、地上からの高さおよび天候変化から来る乱気流よりばらつきがあり、タービンブレードが受けた風のばらつきはギアボックスにとって大きな負担となる。遊星ギアと遊星ギア用ベアリングは、ばらついた風のストレスを吸収する役割を果たす。1分間に20~30回転とはいえ、気流の乱れによって受けるストレスは大きく、遊星ギア用ベアリングだけでなく、遊星ギアも内視鏡による目視検査が重要な部位である。

遊星ギアは構造が複雑で、アクセスし難い場合が多い。形状を記憶させたウレタン製のガイドチューブに内視鏡を通すことで検査効率を劇的に改善することが可能である。ギアボックスの構造が詳細に分かれば、オリンパスなら検査目的に応じた特性のウレタン・ガイドチューブを製作することも可能である。
また、外径は6.2mmとなるがチャンネル内蔵型スコープから圧縮空気を噴射することで、遊星ギアの表面やスコープ先端に付着した潤滑オイルを除去しながらの検査も可能となる。

(5) ギアの歯の検査

ベアリングとともに、それぞれの軸のギアの歯も内視鏡による目視検査の対象となる。高速軸や中速軸のギアは直接目視で観察することが出来るため、内視鏡による検査の必要性は薄い。一方、低速軸ギア、遊星ギアやリングギアの検査には内視鏡が必須である。構造が複雑なためベアリング検査で使うガイドチューブを使って、内視鏡の先端にオイルが付着しない様に注意しながら検査する。ギアの歯は長さが10cmを超えるものが多いが、確認したい傷は非常に小さい場合が多いので、近焦点の光学アダプタが有効である。

(6) タービンブレードの検査

長さが40mを超えるタービンブレードは製造時に内視鏡による品質検査が行われている。ブレードのトレーリングエッジ(=後縁部)の合わせ接着部分の検査では、ブレードの途中までは人が入ることが出来る空間があるが、ブレードの先端に近づくに連れて、人が入ることが出来なくなる。小型、軽量の内視鏡IPLEX(アイプレックス)なら、内視鏡をブレードの途中まで持ち込んで、ブレードの先端部分の目視検査が可能となる。

ブレードのメンテナンスにおいても、内視鏡による目視検査が活躍する。ブレード先端の水抜き穴の検査やブレード・トレーリングエッジ接着部の検査に内視鏡が適用される。水抜き穴が塞がっていると、落雷時に内部の水が急激に気化し、ブレードを内部から破壊することがある。冬場では内部の水が氷結膨張してブレードを破壊することがある。ブレードのトレーリングエッジ内部の検査をするには、5mmのドリルでブレードのトレーリングエッジに穴を開け、合わせ接着部分を確認し、必要に応じた補修を行う。

3. 風力発電を支えるオリンパスの工業用内視鏡IPLEXシリーズ

検査者の作業性を向上する携帯性

IPLEX大型化が進んだ風車は70mを超える高さがあり、梯子で登るのが普通である。小型軽量の工業用内視鏡IPLEX UltraLiteIPLEX LX/LTならパウチに入れて持ち上げることも可能である。

また長時間バッテリーで駆動出来るため狭いナセル内でも電源ケーブルの取り回しを気にする必要はない。

3-1. 優れた光学性能で、ベアリングの表面をシャープに観察

工業用内視鏡IPLEXシリーズは、挿入部の太さがφ2.4mm~φ8.5mmまで、長さは1.2mから30mまでの様々な機種を取り揃えている。通常内視鏡の外径が太いほど、光量が豊富で明るく丈夫である。

風力発電ギアボックスで最も検査を要する部位はベアリングであるが、形状に応じて、内視鏡の太さを選択するとよい。φ4mm~φ8.5mm径のIPLEXは、先端のレンズを交換することにより、近点観察/遠点観察、視野角を切り替えることが出来るので、ベアリングローラー(=軸受ローラー)の狭い隙間に挿入しても、広い視野でベアリングの表面の様子を確認することができる。

3-2. 潤滑オイルの付着を軽減するAir Jet LED Sleeve

ギアボックス全体には潤滑オイルが散布されているため、ギアボックス停止後もシャフト(=軸)やベアリングには多量のオイルが付着している。内視鏡での検査においては、レンズにオイルが付着しないようにするなど、様々な注意が必要となる。

この状況を回避するのに、オリンパスが特注品として用意をしているAir Jet LED Sleeve (AJLS)が威力を発揮する。特殊加工したスリーブチューブから空気を噴射し、ギアやベアリング表面に溜まっているオイルを吹き飛ばすことが出来る。スコープレンズ先端にオイルが付着した場合でも、空気の噴射によりレンズ表面のオイルを検査が可能なレベルに除去することが出来るので、スコープ先端に付着したオイルを頻繁に拭き取る必要が無くなる。AJLSは先端が90度曲げられているので、上部のハッチから高速軸、中速軸用ベアリングを検査するのに適している。また、スリーブの先端にはLED補助照明を取り付けているので、大光量が必要なギアの検査に威力を発揮するだけでなく、ベアリング検査時にも補助照明として役に立つ。

4. 検査の記録を確実にする検査支援ソフトウェアInHelp

ギアボックスを内視鏡で検査する際、100~400枚の画像を取得するのが一般的である。低速、中速、高速軸を支えるベアリングを検査すると、似たような画像が多数あり、検査後に内視鏡画像をPCで見ると、どのベアリングの画像であるか判別することが出来ない場合が多い。非常に似通った別々のベアリングを検査する場合、各部位の記録を分類するのは、手間のかかる手作業で間違いが起こりかねない。検査画像記録の時点でしっかり検査部位情報を記録しておかないと、検査報告書を正確に仕上げることも出来ないばかりか、過去の検査との比較も出来ずトレンド分析が出来なくなる。

そこで活躍するのが、工業用内視鏡用検査支援システムInHelp(インヘルプ)である。InHelpの機能に沿って検査を行えば検査画像をフォルダに分類記録し、さらに検査画像に判定情報や定型コメントを漏れなく付加していくことができる。検査終了後に報告書を作成する場合は、InHelp Viewer を活用すれば50枚以上の画像を扱う報告書でも、短時間で完成することが出来る。

5. 目視検査以外の検査機器

オリンパスでは超音波探傷器やX線分析装置を製造販売しているが、風力発電設備の検査に応用されている。
最新の超音波探傷器はタービンブレードの内部破損の検査をビジュアルに実現している。
バッテリー駆動出来るX線分析装置(X5000)を使えば、採取したオイルサンプルをラボに送らずとも、その場で含有する金属の種類、大きさと量が正確に確認出来るので、ギアボックスの健康状態をより早く診断することが出来る。例えば、X5000で特定の金属の増加が見られた場合、その金属が使用される部位を直ぐに内視鏡で確認し、良否判定をタイムリーに行うことが可能となる。

Olympus IMS

この用途に使用される製品

小型軽量ボディに最先端の機能を搭載した、さまざまな現場に対応できる手のひらサイズのビデオスコープ。明るく見やすい画像と高い記録性を兼ね備え、簡単操作で効率的な検査作業を実現します。

風力タービン検査向けに開発されたIPLEX G Lite-Wビデオスコープは、優れた携帯性かつ高画質で、風力タービンのナセルのような狭いスペースでの検査も効率的に行えます。

ハイエンド機種に迫る機能・画質を備えながらも、コンパクトで操作も簡単。使いやすさと機能性のバランスに優れた、幅広い現場のニーズに応える多目的ビデオスコープ。

検査支援ソフトウエアシステムInHelpは、工業用内視鏡の検査からレポート作成までの一連のプロセスをシステム化し、業務の飛躍的な省力化、効率化に貢献します。検査画像データの体系的管理やレポートテンプレートの統一により、検査業務の標準化を実現します。
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