
可動スライド式プローブの取り扱いは固定式プローブと類似しており、ここに示す情報の多くは固定式プローブの説明と同じ内容になります。双方の技術情報は各プローブの説明に含まれ、個別に読んでいただきますが、固定式プローブの説明を先に確認いただくことが望ましいです。
スライド式プローブとは、プローブをスライドさせながら検査範囲のファスナー上をまたいで移動することから、その名がつけられています。従来、プローブは"スポット型プローブ"が使用され、ファスナー周囲を輪のように周回するプローブまたはスポット/表面プローブが適用されていました。
スライド式プローブは、自己誘導方式(励磁-検出が分かれている方式)で動作する渦流プローブです。これは、渦電流が励磁コイル(送信)で誘起され、別個の検出コイル(受信)で検出されることを意味します。可動スライド式プローブは、2つのコイル本体の間にスペーサーが組み込まれています。
スライド式プローブは、多数のファスナーの亀裂を探傷する最速の方法です。本プローブは、表面及び表皮下に位置する小さいきずを検出可能です。可動スライド式プローブは、主翼のような複数層構造の表面下の亀裂を検出するのに特に適しています。90度スキャンと呼ばれる亀裂に対して直角(プローブを90度回転させる場合でも)に移動させる探傷方法が多く用いられ、固定式プローブとは異なっています(Appendixを参照)。
きずの検出範囲はプローブ内部のコイル間の中心付近であり、指向性があり、そのため刻印された(通常は緑色)「検出」ラインを予想される亀裂の方向に保持する必要があります。本プローブは、二種類のスキャンが可能です:ファスナー上にプローブの中心を合わせたスキャンまたはファスナーの両側面の(接線方向)スキャン(及びファスナーの各側面のスキャン)が該当します。
可動スライド式プローブは、通常表皮下の亀裂検出に使用され、固定式スライドプローブの方が有利な表面亀裂の探傷に使用されることは希です。ただし、大型または磁性体のファスナーおよび/または亀裂がファスナーの列に対して90度の方向に伸びている場合などにはいくつかの例外があります。透過性は大型のプローブでは増加し、20mm (0.75インチ)の深さも可能ですが、小型のものが最も一般的で100Hzまで使用されます。
プローブがファスナーヘッドを通過する時、図1のような信号が得られます。これは、固定式プローブの信号と極めてよく似ています。リフトオフは、通常水平方向に調整します。信号は直線ではなく曲線表示となるため、塗装やファスナーヘッドの凹凸によって予期されるリフトオフのバラツキに対して、ある程度の補正の必要性を理解しておくことが大切です。リフトオフの調整は、0.25mm (0.01インチ)から0.5mm (0.02インチ)のリフトオフ信号を水平方向に合わせるだけで十分です。図1では、ゼロ点「X」から点「Y」までの動きが相当し、この間で信号が水平方向に動くように調整されています。

図1
急勾配な曲線であるため、調整位置でも曲線が僅かに上方に動いてから下方に動きます(図2参照)。必要なリフトオフの垂直方向の動きの量は分散されるため、表示は水平から僅かに上か下へシフトするのみです。

図2
検出精度を高めるため、コイル間のスペーサー厚さを調整します。校正を行うためのノッチが(良好な表示を行うために)十分長い場合は、ファスナーヘッドの上に中心を合わせ、1回のスキャンのみを行う方法が適用されます(本スキャンでの一般的なスペーサーの厚さは、おおよそファスナー直径と同じです)。プローブを180度回転させてもノッチが依然として検出されるかを確認してください。このタイプのスキャンは、ファスナーヘッドが大きいものや磁性体のファスナーには適用できない場合があります。
ファスナーヘッド側面のスキャンでは、多くの場合薄いスペーサーが適していますが、参照基準から得られた経験に基づく結果と検査対象物の構造で最終判断を行います。スペーサーの厚さの範囲は、ヘッドが小さいファスナーが使われており表面近傍を検査する場合は0mm(スペーサー無し)、大型のプローブタイプを使用しヘッドが大きいファスナー部の深い浸透を要する場合は最大8mm(0.3インチ)まで変化します。検出範囲が広くなるため、厚みのあるスペーサーを使用するとプローブの変動許容範囲が増しますが、探傷器はより大きな感度が求められます
プローブが通常の90度スキャンで亀裂の無いファスナー孔上を移動する場合は狭い信号が表示されますが、0度でスキャンする場合の信号はループ表示となります。図3およびAppendixを参照してください:(全ての亀裂が評価されるスキャン方向)。励磁コイルと検出コイルがファスナー上を移動するに際の位相変化でループが描かれ、それは固定式プローブよりも大きい表示となります。点が「a」にある場合は、プローブは完全にファスナーヘッドの中心にあります(両方のスキャン方向で共通)。

図3
亀裂のあるファスナー孔上をプローブが移動する場合、検出される信号は変化し、一般的により大きなループと垂直方向の動きを示します(図4参照)。

図4
スキャン方向がスキャンと平行か直角かの主な違いは、表示される信号の形状です。点線はプローブが亀裂の長手方向に移動する際に得られる表示を示し(0度スキャン)、実線は亀裂の直角方向に移動する際に得られる表示を示しています(通常の90度スキャン)。その理由は、亀裂が長手方向に「ゆっくりと」スキャンされた際は位相がゆっくり変わりループ表示しますが、亀裂の直角方向に移動する際はプローブからは「急激な変化」に見え、鋭く狭い信号を示すからです。この信号は、プローブの方向性により、移動のある点ではループを示すことになります。これらの信号の両方が、同じファスナーを2つの方向でスキャンすることで検出されます。Appendixを参照してください:(全ての亀裂が評価されるスキャン方向)。
ファスナー孔の反対側にある2つの亀裂が、亀裂に対して直角でファスナー中心を移動するプローブによって検出される場合、一般的に2つの亀裂の表示は足し合わされてより大きな表示となります。これは、両亀裂が同時に検出されるためです(固定式プローブでは、それらは通常0度スキャンで順次検出されます)。
ファスナーヘッド上にプローブの中心をおくことが重要です。ファスナー及び亀裂から得られる信号が最大となります。図5では、表示「a」はプローブをファスナーヘッドの中心に配置した信号であり、「b」および「c」はプローブの中心がズレた際の信号を示します。点線は、プローブ中心の変化に伴う受信信号の変化を示しています(Appendix参照)。

図5
プローブがファスナーヘッドの中心から外れて移動した場合、図4に示すループに沿って亀裂の信号は表示され、図5に示すような結果になります。プローブがファスナーヘッドの中心を移動する場合、亀裂から得られる信号は「a」であり、中心からズレるに連れて「b」の方向に移動し、または反対方向にズレると「c」の方向に移動します。点「b」は、位相と振幅の変化を多少失っても改善された表示を示し、角度分解能が向上します(これは、亀裂が位置する側へプローブがずれたためです)。一回の中心上のスキャンよりも二回の中心からずれたスキャンの方が、より小型のクラックに対してより感度が高いことを意味します。プローブが反対方向にズレると亀裂からの信号は点「c」方向に移動し、多くの位相と振幅の変化が失われ、ファスナー孔から得られる信号に近づきます(図5に示すような小さいきずの検出でも同じです)。このため、ファスナー孔の反対側でもう一度スキャンする必要があります。
亀裂がプローブのスキャン方向に対して傾いている場合、亀裂から得られる信号は低下します。亀裂が通常のプローブのスキャンに対して完全に90度ではない、或いはその進展に伴って角度成分が変化する場合、信号が低下します。プローブが亀裂に対して90°未満の角度となっている際の影響も類似します。Appendixを参照してください:(異なる角度でのスキャン)。
可動スライド式プローブは、プローブのスキャン方向から約30度角度のずれた亀裂まで検出検出する能力があり、角度のズレ量に比例して検出信号は低下します。図6を参照してください。この影響は、固定スライド式プローブで得られる信号に類似しています。

図6
検査対象のファスナーが取り付けられて間もない、または参照基準がアルミスキンプレートと直接接触している場合、通常よりも小さな表示が得られることが少なくありません。極端な場合、ファスナーの表示がほぼ完全に消えることがあります。この原因は、ファスナーとアルミスキン間の導電率が良好であり、境界無く渦電流の循環が可能であり、障害物又は障壁が無い状態となるためです。図7は、近接接触によるファスナーの信号低下を示します。
この問題はリベットに頻繁に見られ、他のファスナーでは希で、ナットやカラーを使用する場合も然りです。何れにせよ、この影響によりファスナーを取り付ける前に参照基準上の孔を塗装することが推奨されます。ファスナーと表面皮膜の間に自然酸化層を発生させる温度変化、湿気や雰囲気の変化に曝される実際の構造を参照基準でシュミレートすることになります。
可動スライド式プローブによる典型的な中心スキャン

可動スライド式プローブによる典型的な側面スキャン(接線方向)(通常二回のスキャンが必要)

全ての亀裂を評価するためのスキャン方向

異なる角度でのスキャン

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