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犯罪科学捜査におけるデジタルマイクロスコープの活用


概要

犯罪科学捜査全般において、科学捜査研究所から法廷まで、デジタルマイクロスコープはさまざまな分野で使用されています。

近年、デジタルマイクロスコープが犯罪科学捜査分野で広く使用されるようになってきているのには理由があります。すばやく簡単に使用できるのはもちろんですが、貴重な証拠となるサンプルを非破壊で観察できるということが最大のメリットです。犯罪科学捜査においては、まずはサンプルに損傷を与えることなく非破壊で調査を行い、必要に応じて破壊検査をするかどうかを検討することが基本です。サンプルに損傷を与えるような検査には、許可を得るための手続きが必要です。場合によっては非破壊検査のみで十分な情報を集めることも可能です。さらに、偏光顕微鏡を用いて繊維を特定したり、毛髪や拳銃など、犯罪に使用された凶器を特定したりするためにデジタルマイクロスコープ画像で比較することも行われています。

スコットランドにあるアバティ大学では、科学捜査研究チーム(ケビン・ファルージャ博士、キース・スタロック博士、グラハム・ウィットマン博士、イソベル・スチュワート氏)がオリンパスのデジタルマイクロスコープDSXを種々の犯罪科学捜査の研究に導入している例を紹介します。オリンパスのDSXシリーズは、直感的な操作で観察、測定、レポート作成を行うことができるため、顕微鏡の深い知識がなくても正確な検査を行うことができます。さらに、高精細なデジタル画像をモニターで観察できるため、複数のメンバーでディスカッションしながら使用することもできますし、顕微鏡の使用が長時間にわたったとしても快適に仕事を行うことができます。研究チームはデジタルマイクロスコープの利点を生かし、指紋、違法薬物および筆跡などさまざまな証拠をより細かく分析しています。

見えない指紋を明らかにする

現場に残された指紋は個人を特定するための重要な情報です。指紋は皮膚表面の畝状の突起で構成されており、円形、渦巻き、アーチといった複数のパターンで構成されます。また、各突起には多数の穴(汗腺)がありここから汗が分泌されます(図1)。例えば血液や絵の具などに指紋が残されている場合はすぐに見ることができます。しかし多くの場合、指紋は汗によって残されており、そのような見えない指紋を見るために追加処理を行って検出していくことになります。

さらに、多くの場合、犯罪者は証拠となる指紋を意図的に消しているため、拭き取られた指紋を復元することが研究領域の一つになっています。興味深いことに、一度手が触れると汗の中の化学物質が金属と反応して指紋が金属面に刻まれ、どんなに拭いても消えない跡が残るのです。金属面と接触した痕跡を消そうとした形跡がある場合、証拠隠滅の意図を推測することもできます。アバティ大学の研究者たちは、金属を400℃以上に加熱した後にオリンパスのDSX110を使用して痕跡の画像を撮影、解析する方法で、金属表面に残された痕跡を可視化する方法を模索しています。また、さまざまな金属を試験する一方で、羊毛、綿、ナイロンなどの異なる布で指紋を拭いたときの影響も研究されています。指紋全体を高倍率で可視化することは詳細な解析をするために非常に重要です。DSX110の画像貼り合わせ機能を用いれば、指紋のように広範囲に存在するサンプルでも高倍率での可視化が可能です。時には指紋から可視化された詳細画像だけでは身元を正確に特定できない場合がありますが、ほかの情報と併用することで犯罪を解明することに貢献しています。

指紋を真上から見ると、指紋の特徴をうまく識別できません。この場合、サンプルに斜め方向から照明を当てて可視化できるDSX110のフリーアングル観察が活躍します。斜め方向から照明することにより、金属に刻まれた谷に影がつき、表面形状がより詳細に強調されます(図3)。

指紋の汗腺

指紋の汗腺
図1
DSX110を使用すると指紋が明瞭に見えます。汗腺は汗の発生源であり、いろいろな面に指紋を形成します。

金属表面の見えない指紋を明らかにする

前述のとおり、金属表面の指紋は、たとえ拭き取られたとしても400℃まで加熱することによって再現することができます。ここに示したのは、羊毛(A)またはナイロン(B)で拭かれた銅と、羊毛(C)または綿(D)で拭かれた真ちゅう上の指紋をDSX110を使用して可視化されたものです。

A 羊毛で拭かれた銅
図2.A 羊毛で拭かれた銅
B ナイロンで拭かれた銅
図2.B ナイロンで拭かれた銅
C 羊毛で拭かれた真ちゅう
図2.C 羊毛で拭かれた真ちゅう
D 綿で拭かれた真ちゅう
図2.D 綿で拭かれた真ちゅう

斜め方向からの照明による金属表面の指紋の強調

斜め方向からの照明による金属表面の指紋の強調
図3
アルミニウムについた指紋を綿布で拭き取った後に400℃に加熱し、DSX110のフリーアングル観察によって可視化しました。斜め方向から照明を当てることによってコントラストがついて観察ができます。
(アバティ大学K.デットーリ氏撮影)

押収された違法薬物錠剤のロゴ

アバティ大学の科学捜査研究グループは、彼らの優れた研究によりスコットランド警察と連携し、犯罪科学捜査において多くの成果を残しています。その活動の一例として、警察が押収した違法薬物の解析にDSX110が使用されました。薬物中毒自体、近年大きな問題になっています。最近、供給業者は精神活性化学物質を代替成分に置き替えている事実が分かってきました。代替成分の多くは砂糖のような無害な材料ですが、危険な材料が使われることもあります。さらに、この活性成分の含有量には大きな幅があります。例えば、最近調べたいくつかの非合法のジアゼパム錠には薬局の処方量と同等である10mgが含まれていることが分かりましたが、ほかのジアゼパム錠にはその4倍の量が含まれており、過剰摂取の危険性があることが分かりました。これらの錠剤を複数のロットにわたって調査しその特徴を明らかにすることは、捜査上極めて重要であり、アバティ大学の研究グループでは、錠剤の物理的特性と化学的特性の両方を手掛かりに操作に協力しています。これにより、違法な錠剤の供給元の違いを識別できる統計的モデルを作り、異なる押収物間の関連を解明し、さらに複数ロットの薬物を追跡してその供給業者までさかのぼることで警察の犯罪捜査を支援しているのです。

押収された錠剤の供給業者を特定するために、その色や形状などをDSX110を用いて分析した例を図4に示します。ほとんどの錠剤にはロゴがあり、そのロゴの一部に損傷などが発見される場合があります。これは、おそらく錠剤のプレス機械についた傷によるものと考えられ、それが錠剤の供給業者の特定につながっています。ここでもまたDSX110のフリーアングル機能が役立ち、ロゴと縁部が詳細に可視化されました(図4B)。これら錠剤の観察は、拡張焦点(EFI)機能によりさらに詳しく可視化されています。EFIでは、一連のスナップ(2D)画像をZ軸方向に積層して、サンプル全体にわたって完全に焦点が合うよう合成した画像を形成します。これにより凹凸のある錠剤の全面を詳細に観察できるようになります。

押収した薬剤の特徴付け

押収した薬剤の特徴を明らかにすることで、警察による供給業者の追跡を支援します。上記(A)の画像に示すような色情報と、それに加えてDSX110のフリーアングル機能を用いてロゴと輪郭を強調した画像(B)によって、供給業者が判明する場合があります。(アバティ大学のS.グリーンフィールド氏撮影)

4A 1 Drugs true colour case10 front
図4.A-1
4A 2 Drugs true colour case10 back
図4.A-2
4A 3 Drugs true colour case31 front
図4.A-3
4A 4 Drugs true colour case25 back
図4.A-4
4B 1 Drugs logo designs and edges case66 tablet
図4.B-1
4B 2 Drugs logo designs and edges case64 tablet
図4.B-2
4B 3 Drugs logo designs and edges case59 tablet
図4.B-3

紙に残った筆跡

文書は多くの理由から不正に操作されたり、あるいはねつ造されたりすることがあります。なりすましによる窃盗や詐欺で偽造文書が使われるのもその一例ですし、殺人犯が被害者の遺書を偽造することもあります。どのような解析手順であってもまず考えなくてはならないのは、文書に損傷を与えることなくできる限り多くの情報を入手することです。デジタルマイクロスコープは非破壊での調査が可能なためここでも使用されています。犯罪捜査における文書の解析では、しばしば筆跡、インク、紙を観察します。アバティ大学のプロジェクトでは、紙に残されたボールペンの圧痕に注目しています。紙に線が引かれるとき、押しつけられたペン先は紙の繊維をゆがませ圧痕を残します。圧痕の形状は筆者の書き癖のほか、ペン、紙質、下敷きの硬さによって大きく変わります。もちろん、クロマトグラフィーによるインクの化学成分解析も行われます。しかし、ゲルタイプのインクの場合は溶解しにくいため解析には限度があります。そこで、別の解析手段が必要なのです。

デジタルマイクロスコープで拡大観察を行うと、インクの色範囲と分布、さらには、紙の繊維まで可視化することが可能です。3D撮影機能でハイトマップとして可視化すれば、圧痕の深さも測定できます(図5)。

紙に残されたペンの圧痕の解析

紙に残されたペンの圧痕の識別により筆者を推定するための情報が得られます。筆跡がDSX110で可視化されています。それぞれ、明視野観察像(A)、2Dのハイトマップ(B)、3Dのハイトマップ(C)です。
(アバティ大学のK.デノバン撮影)

(A)明視野観察像
図5.A
(B)2Dのハイトマップ
図5.B
(C)3Dのハイトマップ
図5.C

法廷における証拠

科学捜査にとってデジタルマイクロスコープで得られた情報そのものが重要であることは言うまでもありませんが、得られた情報は証拠として提供されることで真価を発揮します。百聞は一見にしかずと言われるとおり、1枚の画像に含まれる情報の方が、数値や口頭による説明よりもずっと簡単に、陪審員に物事を伝えることができます。図6はDSX110のレポート作成機能によりデータがどのように明確に伝えられるかを示しています。さらに、画像貼り合わせ機能は非常に有効な機能です。これまで挙げたように、解析する対象が指紋であろうと、違法薬物のロゴであろうと、不審な文書の筆痕であろうと、サンプル全体の画像を生成し提出することは陪審員への証拠説明に不可欠です。このような貼り合わせ画像は、必要に応じてさらに拡大してサンプルの細部を拾い出し、さらに重要な情報を得ることも可能です。

法廷にはデータを伝えるレポートが不可欠

法廷にはデータを伝えるレポートが不可欠
図6
紙のペン圧痕の3D形状と解析が、撮影条件などの付加情報とともに報告されています。(アバティ大学のK. デノバン氏撮影)

まとめ

デジタルマイクロスコープは科学捜査に応用できる多くの機能を備えています。現代の顕微鏡はますますデジタル化が進んでおり、観察力と解析力は大きく進化しています。オリンパスのデジタルマイクロスコープDSXシリーズはその良い例です。DSX110を導入することで、アバティ大学の犯罪科学捜査研究では、数多くの先進的な技術を活用し、さまざまな捜査サンプルから重要な情報を得ることが可能となっています。

デジタルマイクロスコープは簡単に使用することができ、非破壊で科学捜査に応用できるため、ほかの技術で補完することもあるものの、捜査官がより短時間で事件解決に到達できるようになりました。犯罪科学捜査は予算の制約があるため、効率面での貢献が重視されるようになってきています。デジタルマイクロスコープの技術進化に伴い、迅速さや操作性の改善によって、研究から応用捜査、さらには法廷にまで、犯罪科学捜査における応用範囲は拡張し続けます。

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高度な光学技術とデジタルイメージング技術を融合した、オリンパスのデジタルマイクロスコープDSX1000シリーズ。解析業務スピードの飛躍的向上と充実した精度保証によりをワークフロー革新を実現します。ISO/IEC 17025認定校正に対応しています。

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